秘密


 この能力は本当に不必要なものだった。
 今でもこんな能力を捨てれたらいいのに、と思っている。

 私がこの能力を理解するまで時間は然程かからなかったが、代償もでかかった。

 両親は私が七歳の時に離婚した。
 性格の不一致ではなく、母親の不倫である。気付いてしまったのは五歳の時だった。
 お母さんに抱き締められた時、脳内に文字が浮かんだ。【ひみつ:あいだけいこはおかしげはるとふりんしている】と出てきた。
 平仮名はお母さんに教えてくれていたから読めた。だからこそ、脳内に浮かんだあいだけいこはお母さんの名前だと分かった。

 ただおかしげはるとふりんの意味がわからなかった。
 どこで区切って、どういう意味を成すか五歳の頭にはわからなかったからである。
 幼さゆえの好奇心と無邪気さで家庭を破壊することになるとは思わなかった。

 本当によくある普通の日、幼稚園バスで出迎えてくれたのは珍しくお父さんだった。
 幼稚園バスの窓の外からひらひらと手を振る。お父さんはスーツ姿で、いつもよりも顔色が明るい。

 嬉しくなって、駆け足でバスから降りてお父さんに抱き着いた。
 お父さんを抱き締めたときもお母さんと同じように文字が浮かんだ。

 【ひみつ:たばこかいきん】と読めた。
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