厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

モフモフ王女、花離宮へ献上される

 「魔法」や「獣人」が存在しているが、その力の源となる「マナ」が減少し、希少となっている世界『マルス』。
 生態系の中で圧倒的多数を占める「人間」の強者たちは、大航海時代を経て、開拓という名の侵略を進めている。
 大海に浮かぶ、とある小さな島国にも、巨大な軍艦の影が迫っていた――。

 ――ぴょこんっ!

「ふぁっっっ!」

 春の花を思わせるピンクゴールドの髪の間から、ふいに飛び出した三角形の獣の耳。
 シャムール王国の第一王女、フラン・ミア・シャムールは、慌てて自分の頭頂部を押さえつけ、ふわふわのケモ耳をなんとか隠そうと奮闘した。

 今は王城の中にあるホールで、大事な恒例式典の最中だ。多くの国民も参列し見守っている中、象徴となる王族が騒いだり、無様な姿をさらしたりすることは許されない。

(だけど、どうしてもくしゃみが我慢できなくて……バカ! 私のバカ~っ!)

 家族である父王バウム、母王妃ベラ、そして妹王女のマーガレットは、辟易した表情を浮かべながら、冷ややかな視線をフランに向けて流している。

「まったく、見苦しいわね……!」
「もう、お姉様ったら恥ずかしい……」

 母と妹の小言が、鋭敏になった大きな耳に嫌でも飛び込んできた。式典の顔である父王は、顔を真っ赤にして怒りに身を震わせている。

 思うように引っ込んでくれないケモ耳が、手の中で力なく萎む。
 この行事が終わったらひどく叱責され、罰としていつもの廃宮に閉じ込められることになるだろう……。
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