厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 城に戻り少し落ち着いたあと、ライズは奥まった一室にフランを連れていき、怪我の有無を確認した。フランを椅子に腰かけさせ、自分は傍らについて、それこそ隅々まで丁寧にあらためる。
 そうして見つけた手の平の小さな擦り傷を凝視して、ライズは眉間に深い皺を寄せた。

「擦りむいているな……それに打ち身も」
「あの、陛下。私は大丈夫です。傷の治りは早いほうなので……」

 騒ぐほどの傷ではないと、フランは首を振るが――。

「……すまなかった」

 握られている手を引っ込めようとしたが、放してはくれない。そのまま彼のほうへ引かれたと思うと、甲の上に唇を押し当てられて――フランの目がまん丸になった。
 苦痛が飛んでいくようにとのおまじないだろうか。だとすれば効果は抜群だ。頬が熱くなり、痛みを感じるどころではなくなったから。

 帝国教育の賜物か、持ち前のセンスなのか――ライズが突然見せる所作は紳士的だが大胆すぎて、いちいちときめいてしまう。むしろ公的な場ではいつも無愛想で、クールな表情を浮かべているのに。
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