厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

新たな皇妃候補(1)

 大慌てで駆け込んできたサリーが、皇太后の来訪を告げたときには、すでに一行は部屋の扉のすぐ近くにまで到達していたらしい。

「え? 皇太后様がどうされたの?」

 そう呟いた直後、心の準備をする間もなく扉が開け放たれ、豪奢なドレスを纏ったヴィクトリアが、大勢の侍従を引き連れて姿を現す。
 動転したフランは、跳ねるように席を立って皇太后を迎えた。

「こっ、皇太后様!? 本日はいかがされましたか?」

 ひとまず椅子に腰かけてもらうよう勧めたが、皇太后は聞き流して部屋の中央に歩みを進めると、ぐるりと部屋を見回して言う。

「用事というより、お願いがあって来たのよ。実は早急にこの部屋を模様替えしたいと思っているの。何度も居所を移らせて申し訳ないけれど、出ていってもらえるかしら? あなたの部屋は、花離宮のほうにまだ残してありますからね」
「えっ? は、はい……。でも、それは……」

 いくら皇太后の命令とはいえ、従う前にライズの意向も確認したほうがいいだろう。
 答えを濁していると、ちょうど頭に思い浮かべていたその人が、開けっ放しになっていた出入り口から姿を見せた。 
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