厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

癒やしの夜(1)

 その夜、就寝の準備を整え、侍女を下がらせたフランは、ひとり静かな夜を迎えていた。
 入浴と着替えを済ませて、身も心もさっぱりしている。このところ毎日、気を揉んでいたせいだろうか。うっすらとした疲労感が体を取り巻いていた。

 ライズの安全も確認できたし、久方ぶりに凜々しい姿を目にできて充実感がある。今夜は久しぶりによく眠れそうだ。
 ベッドに入る前に居室の窓を閉めようと窓枠のそばに立つと、夜空に昇った満月が視界に映った。くっきりとしたまん丸のフォルムを見事だと思い、しばらくの間それを見上げていたら、

「フラン」

 と、名を呼ばれた気がして、声のしたほうを見やった。
 窓から顔を出して見下ろすと、目の前に枝を伸ばす大樹の根元にライズが立ち、こちらを見上げている。

「へ……陛下!?」

 目が合うと、彼は口元に人差し指を当てて、騒がないよう合図してきた。
 そしておもむろに木の幹の取っ掛かりに手を伸ばすと、軽々と体を持ち上げ、器用に枝を伝って登ってくる。
 あっという間に同じ目線の高さまでたどり着くと、大木から窓枠に飛び移り、部屋の内側へと軽快に降り立った。
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