厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「顔を見せてくれ」

 抱擁が緩められたので、もぞっと身じろぎをして顔を上に向けた。
 降ってきそうなほど近くに紫の瞳があって、引き合うように視線が絡まる。

「ライズ様……」
「今日は、名を呼んでくれるのだな」
「今は……ふたりきり、なので」

 夢うつつのように呟くフランを、自信に満ちあふれた笑顔が見下ろしている。
 ライズは再び腕に力をこめて隙間なく抱きしめ直すと、フランの髪に頬を寄せて言った。

「いいから、ずっとそう呼べ。……命令だ」

 それはきっと、新たに与えられた特別な勲章。フランは素直に、こくりと頷いた。

 ぎゅっとしてから自然に身を離し、もう一度互いの瞳を覗き込んで、照れたような微笑みを交わす。
 ひとまず落ち着いてゆっくりしてほしいと部屋の中へ案内し、普段お気に入りにしているひとりがけのソファに腰かけてもらった。
 少しここで時を過ごしたらまた城に戻らねばならないと言うライズに、部屋に備えてあるティーセットを使って、温かい紅茶を振る舞うことにする。
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