厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「あの、ライズ様……。どこかお怪我をされていませんか?」
「ん?」

 意表を突かれたような表情を見て、確信した。嗅ぎ取ったのは、おそらくは血のにおい。彼はどこかに傷を負っているのではないか。
 そう尋ねると、ライズは苦笑しながら言った。

「おまえには隠せないな。だが、たいしたことはない」
「ダメです。見せてください」

 ぐいぐいと詰め寄るが、彼は困った顔をして答えを濁すばかりだ。
 埒が明かないので、すみませんと断って相手の上衣に手を伸ばし、彼の服をたくし上げた。抵抗は見せずに「おいおい」と苦笑いするライズの右脇腹には、矢を掠めたらしい新しい傷痕があった。

「やっぱり、お怪我をされて……」

 簡単な手当てはしたのだと思うが、見るからに最小限のもの。医務官には頼らず自ら施したのだろう。当ててあるガーゼには、赤い血が滲んでいた。

「奇襲を受けたときに、ちょっとな。早く片づけて城に戻らねばと、考え事をしていて……私もだいぶ腑抜けていたようだ」

 おそらくは、怪我をしたことを皆に隠していたに違いない。指揮官が傷を負っては、部下たちの士気が下がってしまうから。
 幸いにも化膿はしていないようだが、このままにはしておけない。
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