厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 肩を落としていると、そっと頭に手を置かれた。

「千切れた部分がどこかに挟まっているかもしれない。探してみるから元気を出して?」

 顔を上げて頷くと、ふと窓から差し込む光が橙色に染まりつつあることに気づく。
 長く時間を過ごしてしまった。そろそろ花離宮に戻らねば、侍女が心配するだろう。

「ルーク殿下。またお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「もちろん。明日も来てくれると嬉しいよ」

 そう約束をして、今日は別れることにする。
 扉ではないところからの出入りはもはや慣れたものだ。窓辺に飛び乗って、外に出る前に一度振り返る。
 ベッドに身を起こした姿勢でこちらに顔を向けたルークが、寂しげに微笑んでいた。

       *

 その日から毎日、フランは空いている時間にルークを見舞った。ただし人間の姿ではなく、終始、小動物の姿をとっての訪問だ。病人を気遣う以外の意図はなかったが、道義的に線を引く必要はあると理解していた。

 それに小離宮は、暗黙の了解で近づくことを禁じられている場所だった。それは長く城にいる者ならば誰しも知っている常識であったらしい。
 出入りしていることが明るみになれば、警備が厳しくなるだろう。けれど小動物の姿であれば、目立たないよう行き来することはたやすかった。
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