厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「どうして……」

 胸が痛くて、涙が零れてきた。その様子を見ているはずなのに、いつどんなときも守ってくれていた彼は、労わりの言葉をかけてはくれない。きっと怒っているからだ。
 視線を合わせるのが怖くて、うつむいたまま慟哭することしかできない。

「なぜ……ライズ様は、私を苦しめるのですか」
「……苦しめる?」

 ――だって、シルビア姫がいるのに。

 口に出せていたかどうかはわからない。混乱して、我を忘れていたと思う。
 ルークのことで怒らせてしまったのはわかるが、このような懲らしめ方をするなんて、間違っている。こんなことをされたら……またも自分が好かれている、求められていると勘違いしそうになるではないか。

 けれど醜い嫉妬でしかない心の内を、これ以上さらけ出したくはなかった。
 なにも言えなくなってしまうと、相手からも重い沈黙が落ちてきて――やがて彼は黙ったまま、部屋を出ていった。
 フランは涙に濡れた顔を覆い、いつまでも肩を震わせていた。
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