厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 心がざわめいて、フランの前で大人げない態度をとってしまったと思う。
 衝動のままに唇を奪うと、「どうしてこんなことをするのか」と、悲しげな瞳を向けてきた。拒否されるなどとは思わなかったので、少なからず動揺もした。

(私の行動の意味が、わからないだと……?)

 もやもやとした気持ちが膨らんでいく。自分が離れている間、フランとルークはどのようにして過ごし、どんな会話を交わしたのだろう。
 執務室の前にたどり着いて、考えがあらぬ方向へ逸れていたことに気づいた。
 どうもフランのことになると、いつもの自分ではいられない。

「フラン様に監視をつけますか?」
「いや……そこまですることはないだろう」

 気を落ち着け、冷静な判断を心がける。
 ルークの命の灯火は残り少ない。最期に天が導いたのかもしれない救いを取り上げるほど、無情にはなれなかった。
 ただひとつ、胸に覚えたちくりとした痛みは、妙な余韻を残している。だがそれも仕事に没頭するうちに紛れていった。
 その晩、ライズの執務室から明かりが消えることはなかった。
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