厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
       *

 ライズの許可を取れなかったので、フランは小離宮に行くことにうしろめたさを覚え、見舞いを数日空けてしまった。
 けれども、ほんの短期間であっても親しく言葉を交わし、慰めを待っていた人を放っておくことはできない。
 城内で行われた夕礼に顔を出した帰り、気づけば足が花離宮とは逆の方向へと向かい、北東の森の入り口に立っていた。

 とはいえ今は獣に変身していないし、空が暗くなりかけたこんな時間に小離宮を訪れるのはさすがに非常識だ。
 よって明日また改めて訪れるつもりで、ただ木の陰から道の先を眺めていると、森の奥から手持ちのランプを揺らし、駆け出てくる人物がいる。見慣れたその人は、ライズの側近であるクリムトだ。
 普段は冷静な彼がとても慌てた様子で、フランが見ていることにも気づかず一目散に城を目指して走っていく。その姿を目で追ううち、不吉な予感が湧き上がってきた。

(まさか、ルーク殿下に、なにかあったの……?)

 血相を変えたフランは、クリムトと入れ違いに森の中へと入っていった。
 ドレスの裾が汚れようがヒールの高い靴が傷もうが、構っていられない。つまずきながらも暗い森を駆け抜けて、小離宮の前にたどり着く。
 施錠されていない扉を見たとき、ますます嫌な予感が膨れ上がった。
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