厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「フランの力については、伏せておくつもりです。過去、獣人が絶滅寸前にまで追い込まれたのも、その希少性が外に漏れて乱獲に遭ったため……。先祖返りであるフランの存在が他国に知られれば、面倒なことになるでしょう」

 ルークもまた、兄の言葉に同意を示す。

「そうですね。それにその過去の悲劇についても、もしかしたら我々の先祖が島を開拓したせいで招いた出来事だったのかもしれません」

 ルークがテーブルに手を伸ばし、そこにあった黒塗りの盆を手に取った。そして中に収められている古い紙片をフランに見せるべく、器を軽く傾ける。

「フラン。あのとき中身が破れていて読めなかった本の続きの部分、探しておいたよ」
「初代皇帝であられるデリック陛下の自叙伝ですね……!」

 頷いたルークは神妙な表情になり、知りたかった物語の続きを教えてくれた。

 はるか昔、デリックが楽園の島で見つけ連れ帰ったセイントマリアは、外の不浄な空気に耐えられず早逝してしまった。そのことを彼は生涯悔いて過ごしたのだという。
 その後、奇跡の種族は欲深い人間たちに狙われ続けた。国を興したデリックが彼らを庇護しようとしたときにはすでに遅く、はかない命を逆手に取るように、この世から姿を消していた――。

「そんな……」

 思っていたよりも悲しい結末に、しばらく絶句してしまった。自らの先祖のことを思うと痛ましい気持ちになる。
 ライズが話を引き取り、断固たる口調で言った。

「だからこそ、現代でも同じ失敗を繰り返し、フランを危険に晒すわけにはいかない」
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