厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 皇妃の部屋まで送ってもらい、扉の前でライズと言葉を交わした。
 彼はこのあと執務室に戻るという。建国祭やルークの恩赦の件など、これからさまざまな準備と根回しが必要となり、いつにもまして忙しくなるに違いない。

「ライズ様、貴重なお時間をありがとうございました」

 するとそっと抱き寄せられたので、甘えて彼の胸に頬を擦り寄せる。馴染んだ香りと温もりに包まれ、安らぎを感じた。

「気を遣わせてしまったな。母上も悪気はないのだが……」
「いえ、皇太后様とお話ができて、とても嬉しかったです」

 これは本心からの言葉だ。ルークの無事な姿が見られて嬉しかったし、皇太后との間にあった壁が取り払われた気がして、気持ちが軽くなった。

 だが正直なところ、皇太后が言っていた一大発表とやらの件については、ひどく気を取られてしまっている。
 思い切って尋ねてみればいいのだが、彼の口から語られる真実が、耐えがたいほどの苦痛と悲しみをもたらすかもしれないと思うと、どうしても勇気が出ない。
 『自分などが一番に選ばれるはずはない』のが大前提――根づいた劣等感は簡単に拭い去れるものではなかった。
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