厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 声をからして叫ばれる怨嗟の言葉は、フランの喉からも水分を奪っていった。

「それは、どういう……私は、お父様とお母様の間に生まれた子ではないのですか? 私の本当の母親は、もう亡くなって……?」
「そうよ、そのせいで王が変に執着して引き取るはめになったんだから……。けれど、おまえが本当に王の子かどうかなんて、正直わからないわよね。死人に口なしだもの」

 今まで家族だと信じて持ち続けていた絆のようななにかが、もろく崩れていくのを感じた。同時にずっと抱いていた違和感が解けていく。

「汚らわしい娘。おまけに先祖返りだなんて気味の悪い能力を持ったおまえが、わたくしやマーガレットより幸せになるなんて、あってはならないのよ! さぁアルベール、フランを黙らせて運び出しなさい。痛い目を見させてもいいわ。人が来る前に……早く!」
「嫌っ、放して! 誰か――」

 叫ぼうとしたが背後から抱え込まれ、口を塞がれてしまった。片手でアルベールを押しのけようとしてもびくともしない。掴まれているほうの左手も、まるで動かせなかった。
 このままでは簡単に連れ去られてしまう。せめて獣化の力が使えれば、彼らを翻弄して逃げられたかもしれないのに。
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