厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 目尻に涙が浮かんだ。黒い革手袋をはめたアルベールの手が口と鼻を覆っており、声を出すどころか呼吸すらもままならない。酸欠で目の前が白くぼやけてきた。

(……あぁ、そんな……。ライズ様……助けて……助けて!)

 頭の中で、繰り返し大切な人の名を呼ぶ。
 すると、左手の薬指にある指輪が、妖しく煌めいた。

 ――ゴウッ……!

 唸るような音を立て、指輪のセンターストーンから紫色の炎が勢いよく噴き上がる。

「うっ!?」

 炎に煽られ、顔を歪めたアルベールがフランの手を離し、後ずさりした。

「なっ、なにごとなの!?」

 ベラも突然の炎上に驚き、よろけるようにうしろに下がる。
 驚いたのはフランも同じだ。危険な炎を少しでも体から遠ざけようと、指輪がはまっている左手を先へと伸ばして顔を背ける。だが色鮮やかな炎からは熱さを感じなかった。
 おそるおそる指先を確認すると、生じている炎に触れてはいても、火傷もしないし痛みも感じない。けれどもアルベールのほうは服の袖が焦げて、炎によるダメージを少なからず負っている。
 唖然としているうちに、炎は指輪に吸い込まれ、消えていった。あとには何事もなかったかのように、美しい石が煌めいている。
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