厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「私の妃を愚弄し、害そうとした罪は重い。どう贖ってもらおうか」
「な、なんのことでしょうか……。わたくしたちはただ、懐かしい再会を喜んでいただけですわ」
「言い逃れをしようとしても無駄だ。ウェスタニアの口車に乗り、フランを売り渡そうとしたな」

 真相を言い当てられたベラは息をのむ。けれども彼女は諦めなかった。

「ち……違うのです。わたくしは帝国のためによかれと思って……その子は卑しい血を引く化け物なのですよ!? 騙されてはいけません。わたくしの娘のほうがよっぽど……」
「黙れ。それ以上発言するなら、この場でその首をはねてやる」

 毅然として発せられた声には、息をのむほどの凄みと重みがあった。

「ちょ、ちょっと、アルベール! なんとかしなさい! あなた護衛でしょう」
「か、かしこまりました……」

 忠実なアルベールは、主君の命令により腰に下げた剣を抜こうとした。けれどもその腕は、遠くから見てもわかるほどに震えている。ライズとの実力差を肌で察しているのだ。

「やめて、アルベール。皇帝に剣を向ければ、死罪になるわ。お願いよ……もうこれ以上、悲しい思いはしたくないの……」
「フラン様……」

 アルベールはそのまま剣を抜かずに、がくりと膝を折った。
 すぐに帝国兵が駆けつけて、ベラとアルベールを取り押さえた。彼らが連行されていく姿を、フランは目を逸らさずに見送った。

 この日、フランは仮初めの母を失うとともに、その呪縛から解き放たれたのだ。
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