厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 ウェスタニアと我が国は、表向きには同盟を結んでいるが、隙を見せれば喉を噛まれ、丸飲みにされてしまうほどの相手。けして警戒を怠ることのできない存在だ。

 実はシャムールを併合するに至った事情も、西の動向を見てのことだった。
 あれは、小さな島国を攻める一カ月ほど前。某地に忍ばせた諜報兵から、ウェスタニアが次に狙うは、かの小王国かもしれないとの情報が入ったのだ。

 西の大陸から離れた海域にあるあの島に、理由もなく目をつけるとは考えにくい。
 シャムールは獣人が興した国だというが、今ではその血は薄れ、特殊能力を持つ者はほぼ絶滅したといわれている。のどかな隠れ里のようなものだと思っていたが、なにか秘密があるのだろうか。

「西の大国が欲しがる理由が、なにかある。そうお考えになられたのですよね」
「ああ……。希少となった獣人。中でも特異な能力を持っていたという、幻の聖獣に関するものではないかと思ったのだが……」

 その国出身の王女が手元にいるのだから、少しは役に立つかと思い、声をかけた。その結果は、思うような手ごたえは得られず、早々に場を切り上げることになってしまったが。

「西の国は奴隷制度が残り、悪い噂も聞きます。我が国が保護していなければ、どうなっていたことか……。そのことをお伝えすれば、王女様も協力的になられるのでは?」
「いや、協力云々というよりは、本当になにも知らない様子だった」
「怖がっていらっしゃったのかもしれませんよ」
「そうかもしれないがな……」
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