厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 ライズの手によって捕獲され、どうにかされると思いきや。
(これはいったい、どういうこと……?)

 彼は、フランを抱き上げたまま窓辺の執務席に戻ると、なにごともなかったかのように仕事を再開した。
 硬い膝の上にフランを乗せ、ゆっくりと背中を撫でながら言う。

「おまえ、変わった毛色をしているな」

 彼の涼やかな視線と集中力は、基本は机上に広げられた書状に向けられていた。
 羽ペンを持つ右手は常に忙しく動いている。だが空いているほうの左手は、じっと体を縮ませたフランの体にしっかりと当てられ、離れない。
 こちらは緊張で震えているというのに、お構いなしだ。それとも、なだめて懐柔するつもりなのだろうか。

(よくわからないけれど……皇帝陛下は動物がお好きなのかしら)

 意外な一面を見てしまった気分。恐怖心は薄れてきたが、別の意味で困ってしまう。
 左手は器用に動き、時折首筋をくすぐられて、おかしな声が出そうになった。
 力強いようで優しい手の平は大きくて、温かい。なんだかうっとりとするような香りは、彼がつけているコロンだろうか。
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