厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 硬くて長い指が、丁寧に毛並みを梳いていく。それは不快なはずがなく、むしろ心地よくて――だんだんと気持ちも落ち着いてきて、ともすれば瞼を閉じそうになってしまう。
 だが、このまま悦楽に浸っているわけにはいかない。獣化の状態を保つのは、せいぜい数時間程度。しばらくすれば、人間の姿に戻ってしまうのだから。
 もう帰りますとばかりに前足を突っ張らせ、身を起こした。

「なんだ、行くのか?」

 言葉を発するわけにはいかないので、無断侵入したことへの謝罪も込めて、上目遣いに見上げると、思いのほか優しい瞳と目が合った。

(こんな表情も、されるのね……)

 一瞬、ハンサムな顔に見惚れていると、急に体勢を変えたせいだろうか。腹部のあたりから、小さな体に見合わない大きな重低音が鳴った。

 ――ぐう、きゅるるる……。

 空っぽの胃袋が、本来の目的を忘れるなと言わんばかりの悲鳴を上げたのだ。
 ライズの目が、わずかに見開かれる。お腹の音は、ばっちり聞かれてしまったらしい。

「腹が減っているのか」
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