厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 ――さわさわ。こしこし……。

 モフモフの毛並みをなめすかのように、大きな手がゆっくりと前後する。かと思えば軽くつまむように三角耳を挟んで、形や感触を確かめるように動いたりもする。
 硬い指から体温が伝わってきて、ぴりっと首筋が強ばった。頭の中に火花が散るようで、落ち着かない気持ちになってくる。

 撫で方は、痛くはない。むしろ心地いいけれど、なんだかむずむずするし、相手の意図がわからないから不安でたまらない。我慢の限界を超え、声を上げるのに一分と持たなかった。

「陛下……。あのっ……く、くすぐったいのですが……!」

 涙目で見上げると、いつもとは違う表情のライズと目が合う。

「ん? そうか」

 紫の瞳は大きく見開かれ、普段は引き締められている唇がわずかに開いている。
 明らかに、興味津々といった表情。しかも、ちょっぴり楽しそう?
 そのままじっと見つめられて、どうしたらいいかわからなくなってしまう。

「……おまえ、あのときの猫か?」
「えっ……? ええと、その……」
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