厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 正確にいえば猫ではないし、正直に正体を明かしてもよいものだろうか。
 視線を揺らして口をもごもごさせていると、注目の的がフランの手元へと移った。

「それは、私が迷子の猫にやったものだ」

 知らず握りしめたままになっていたハンカチ。もう言い逃れはできそうにない。

「も、申し訳ありません……! けして陛下を騙そうと思ったわけでは……」

 半泣きになって答えると、納得したような呟きが耳に届く。

「驚いたな……。獣人というのは半獣の姿になるだけでなく、完全な獣にもなれるのか」

 彼は目の前に立ったまま、動きを止めてなにやら考え込んでいる。

(怒っては、いらっしゃらない……?)

 圧が弱まったので、少しだけ肩の力を抜いた。
 すると今度は、長い指で顎をすくわれ、上を向かせられる。
 至近距離からじっくりと見つめられて、されるがままのこちらは、身も心も透かされている気分だ。
< 76 / 265 >

この作品をシェア

pagetop