厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
「もう一度、あの姿が見たい。変身してみてくれないか」

 唐突にそんな言葉を落とされて、呼吸が止まりかけた。凍りついたように固まったあと、ドッと全身から汗が噴き出す。
 皇帝の命令に逆らえる者などいないというのに、その立場にいる張本人が急になにを言いだすのか。戯れのように望まれても、フランの能力は中途半端で、自在に発揮することはできないのだ。

 そのことを説明すればいいのだが、頭の中は真っ白になってしまい、心も体も正常に動作してはくれない。青ざめて口をはくはくと動かしていると、彼がわずかに首を傾げ、ブロンドの前髪がさらりと揺れた。
 見つめてくる紫の瞳はきらきらと輝いて、なにかを期待しているようにも見える。

(どうしよう。無理なのに。どうしたらいいの……)

 脳が焼き切れそうなほど悩み、目を回しそうになっていると、

「どうした? 早くしてくれ」
「は、あの……その……」
「変身は、自由にはならないのか?」

 察してくれたことに感謝し、こくこくと頷く。
 理知的な彼は、そのことで怒りだしたりはしなかった。けれども、

「……ふむ。それなら……」

 ライズが再び上半身を屈めてきて、迫力が押し迫った。
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