厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

フランの秘密(3)

       *

 本城に戻ったライズは、側近のクリムトが待機している特別の執務室へと入った。
 並びには皇帝専用の寝所も含めた私室が続いており、あらかじめ許可を与えられた者しか入れないプライベートなフロアだ。

 秘密裏に連れ帰ったフランは獣化した姿のまま眠ってしまったので、長ソファに備えたクッションの上に、ひとまず寝かせてある。
 どのくらいのタイミングで変身が解けるのか詳しくはないが、おそらく明日の朝には元どおり、人間の姿を取り戻しているのではないだろうか。

 ある程度、事情を話してあるクリムトが、主君であるライズの前に眠気覚ましの飲み物を差し出しながら、感嘆のため息を漏らした。

「やはり、フラン王女が、獣人の能力を持つキーパーソンだったのですね」
「おまえ、会食の提案をしたときから、薄々、気づいていたんだろう」
「確信はありませんでしたが、王女からほんの少しだけ、マナの気を感じましたので」

 クリムトは魔術師の末裔で、常人にはない感覚を持っている。
 魔法の原動力となるマナが枯渇した現代では、もう大きな魔法を使うことはできないらしいが、魔力を閉じ込めた魔道具や、古代史の研究にも詳しく、クリムト自身も稀有な存在のひとりだ。
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