厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 そう、この部屋は本来であれば皇帝の伴侶が使うもので、隣にはライズ本人が言ったとおり皇帝の私室があるらしい――すなわち、彼のプライベートが目と鼻の先にあるということだ。ゆえに信頼していなければ住まわせることなどありえないという理屈なのはわかるのだが……。

 彼は、本当にそう思ってフランをここへ連れてきたのだろうか。
 愛人などという悲しい扱われ方ではなく、フランに期待してくれているのなら、光栄に思うべきだが……。
 及び腰のフランを尻目に、サリーはますますの意気込みを見せた。

「これからは、いつ閨に呼ばれてもいいように準備してまいりましょう」
「ねっ、閨……!?」
「フラン様、見てください、こちらの大理石のお風呂! すごいですよ、入浴剤も最高級のものが揃っていて磨き放題です。早速、今日から使わせていただきましょう」

 めまいを覚えながらバスルームを後ずさろうとするフランに、退路はないのだった。

       *

 その日の午後、皇帝からの呼び出しに応じて案内役の侍女についていくと、そこはどことなく見覚えのある執務室だった。
 家具や壁紙を見てすぐに思い至る。いつぞや獣に変身して紛れ込み、その姿で初めて皇帝にお目通りした場所だ。

「フラン、よく来たな」

 明るい窓際に置かれた執務机の向こうから、ライズが声をかけてきた。
< 91 / 265 >

この作品をシェア

pagetop