厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています
 自然に呼び捨てにされて、ドキッと鼓動が跳ねた。けれど嫌な気はしない。距離が近づいたようで、なんだか嬉しく思えてくる。

「皇帝陛下にご挨拶を申し上げます」

 緊張を緩めずに礼をすると、楽にするようにと言われ、どっしりとしたテーブルのある談話スペースに通された。
 ライズが正面のソファに着くのを待ってから、フランも向かいの席に腰を下ろす。
 すぐに侍従の男性が現れて、ふたりの前に飲み物を用意してくれる。
 独特の雰囲気を持つ彼は侍従の中でも特別で、皇帝の側近の部下だと紹介された。

「クリムトと申します。以後お見知りおきください」
「は、はい……よろしくお願いします」

 シルバーグレイの髪を上品にセットし、黒服をそつなく着こなした姿はとてもスマートで、頼りになりそうだ。

「それで、話というのは、おまえの能力のことなのだが」

 第三者がいる中で出されたデリケートな話題に、フランは肩を震わせた。するとライズは一度言葉を切り、クリムトは信用できる相手だから安心するようにと言い添える。
 確認するようにクリムトに目をやれば、柔和な笑顔が人物像を裏づける。
 フランがこくりとうなずくと、ライズが本題に戻った。
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