縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
「窃盗犯だなんて、そんな」
「賽銭泥棒は窃盗には当たらないというのか?」

「そうとはいいませんけど、でもっ!」
こんな幼い二人を前にしてそんな言い方はしなくていいんじゃないか。

薫子はそう思って胸の内で憤る。
だけどそれを切神へ向けてどう説明すればいいかわからなくて、黙り込んでしまった。

「言っておくが賽銭に人々の願いがこもっている。みんな、私を執拗として聞いてくれている。その願いが聞き届けられなくてもいいのか?」

「そんなことは言っていません!」
もちろん、人々の願いだって大切だ。

それなら、この兄弟を救うことだって大切なはずだ。
「人々に順位をつける気はない。だが、真面目にお参りをしに来た人々と、賽銭泥棒を一緒にはできない。せめて、本殿へ手を合わすくらいのことはできたはずだ」

切神の言葉に薫子はハッと息を飲んで兄弟へ視線を向けた。
兄弟はすっかりおびえて青ざめている。

早くここから立ち去りたそうな表情で薫子を見つめた。
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