縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
あのふたりはまるで幼い頃の自分を見ているようだった。
両親に捨てられてこの村の人たちに助けてもらうことがなければ、同じようになっていただろう。

いや、彼らのように知恵もなくただ野垂れ死んでいたかもしれない。
「私は縁切りの神だ。縁を結ぶことは難しい」

切神はムッとした表情で言い返す。
その言葉に薫子はジッと自分のわらじを見つめた。

「では、どうして切神さまは私を妻として迎え入れたんですか? 私との縁は新しく繋がれたんじゃないんですか?」
「それは薫子が生贄としてここへやってきたからだ。引き換えに村から盗賊を追い払った」

その言葉に香るこの黒い瞳が大きく揺れた。
心のどこかで自分は特別だと感じていた。

切神に妻として迎え入れられて、立派な着物を与えられて、少し勘違いしていたのかもしれない。
私と切神さまが繋がれたのは盗賊を追い払うことと引き換えにされたから。

その事実をすっかり忘れていた。
薫子はグッと下唇を噛み締めた。

ここへ来てから幸せな経験が続いていたので、自分の役目すら忘れてしまっていたようだ。
薫子は唇を引き結んだまま、庭へと戻っていったのだった。
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