縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
もう、村に戻る場所なんてない。
かといって切神さまが自分を許してくれるとは思えなかった。

自分で生贄に志願しておきながら、喧嘩をして逃げだしてきた自分なんて……。
情けなくて涙が止まらなくなる。

このまま1人でこの家でくちていくのもいいかもしれない。
その考えに至ったときだった。

不意に足音が近づいてきて薫子は顔を上げた。
涙のせいで視界が滲んでいるけれど、誰かが玄関の戸を開けようとしていることがわかって、立ち上がった。

菊乃かもしれない!
一縷の望みをかけて玄関戸に手をかける。

そして力を込めて引いたとき……眼の前に銀髪が揺れた。
わりと風になびいて揺れるそれは切神のもので間違いなかった。
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