縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
今や薫子の菜園は広い庭の半分をしめている。
そこには四季折々の野菜と果物が沢山なっていた。

「そろそろ収穫して村に持って行きたいと思います」
「そうか」

「でも私は生贄になった身。私が村に下りていけばみんながひっくり返ってしまうかもしれません」
「そこまでは考えていなかったな。なにか顔を隠すものが必要だな」

薫子はこっくり頷き、昨日までは硬い蕾だった果物に手を伸ばした。
緑色をしたそれは人間の世界では見たことのない果物で、切神がくれた種を育てたものだった。

触れてみると実は固くてまだまだ食べられそうには見えない。
だけど切神が言うにはこれで食べごろなのだそうだ。

薫子は不思議そうにその果物の匂いをかいだ。
「自分の食べたいものを想像してごらん」

切神に言われて薫子はすぐにおまんじゅうを想像していた。
一番好きな甘味だ。

「そのまま果物をかじって」
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