縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
「このままですか?」
「そう」

少しとまどったものの、薫子は果物を口へ運ぶ。
まだ固いと思っていたそれは柔らかく歯に刺さり、そしてもっちりとした食感だった。

最も驚いたのは口の中に広がったのがあのおまんじゅうの味だったことだった。
薫子は目を見開いて果物を見つめる。

「これ、私の大好きなおまんじゅうの味がします!」
「これは自分が想像した食べ物を再現してくれる果物なんだ」

切神はそう言うとひとつ実をもいで口に運んだ。
「うん、うまい。天ぷらの味がする」

「嘘!?」
それから薫子は様々な食物を頭の中で想像して果物にかぶりついた。

切神の言ったとおり、思い浮かべた食べ物の味がする。
「残念ながらこれも神域から持ち出すことはできない。自分たちだけで楽しむことにしよう」

薫子は残念そうに果物へ視線を向けたのだった。
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