縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
薫子には仕事の数だけ母親がいた。
その母親たちが薫子の花嫁衣装を見て泣いている。

「いままでありがとうございました。本当に……」
お礼の言葉が途中で支えてた。

喉の奥がひりついて、涙が浮かんでくる。
今日で母親変わりのこの人達とお別れだと思うと、胸が締め付けられるように苦しくなって言葉が出てこなくなった。

喉の奥から出てくるのは、涙の嗚咽の音ばかりだ。
「薫子ちゃん。そんなに泣いたらお化粧が落ちるから」

手ぬぐいを手渡されて薫子は涙を拭う。
これ以上泣いたら台無しになってしまうとわかっているけれど、涙を止めることができなかった。

「薫子……」
後ろで見守っていた菊乃が顔をクシャクシャに歪めてまた泣き出した。

薫子の花嫁衣装を取り囲んで、誰もが泣いていたのだった。
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