縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
と、その時だった。
誰もいないはずの廊下の奥から突然切神が姿を見せて菊乃が悲鳴をあげて尻もちをついてしまった。

カゴが手から落ちて作物が廊下に転がる。
薫子は切神が神出鬼没だと知っていたからそれほど驚かなかったけれど、心臓はドキドキしていた。

「おかえりなさい」
薫子は切神へ向けて言いながら、菊乃の手を取って立たせた。

菊乃はよごれた着物の裾を手ではたいてたちあがり「おかえりなさいませ」と、丁寧にお辞儀をした。
菊乃からすれば切神は雇い主でもある。

下手な言葉遣いはできなかった。
そしてすぐさま膝をつき、作物をカゴに戻していく。

「あぁ」
頷く切神は険しい表情をしている。
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