縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
菊乃を促す千桜の声が聞こえてきたときは、思わず扉に追いすがってしまいそうになった。
待って、まだ行かないで。

喉元まで出かかったことばを飲み込む。
もう、私は村へは戻らないんだ。

みんなとは会えないんだ。
そう思うと悲しくて寂しくて仕方ない。

だけどその気持をグッと押し殺して目を閉じた。
「薫子、薫子!」

必死に名前を呼ぶ菊乃の声も、だんだん遠ざかっていく。
千桜や冴子に抱えられるようにして戻っていく菊乃の姿が脳裏に浮かんだ。

外はもう暗くなっているんだろう。
盗賊が出る村で、こんなに遅くまで女が出歩いて言いわけがない。

早く帰って。
早く。

無事に、みんなの家までたどり着いた。
薫子は寂しさを押し殺してそう願った。
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