縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
でも……。
と、本殿の中を見回してみる。

今はどこにも神様の姿はないようだ。
一体どこへ行ったのか。

また戻ってくるんだろうか。
そう考えている間によく知った声が外から聞こえてきた。

「神様ありがとうございます」
菊乃だ!

薫子はすぐに扉へかけよって開けようとしたが、思いとどまった。
自分はすでに生贄になった身だ。

まだ死んではいないけれど、きっと時期に殺されるだろう。
そんな自分が今出ていけばまた菊乃を悲しませてしまうだけだ。

扉へ伸ばした両手で拳をつくり、引っ込める。
声をかけない変わりに隙間から菊乃の様子を確認してみると、菊乃もまた他の村人たちと同じように笑顔を浮かべている。
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