縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
これも切神が薫子のために準備したものだとすぐにわかった。
薫子は小さいほうのわらじに足を通して広い庭へと出た。

庭の右手には池があり、覗き込んでみると鯉が何匹が泳いでいる。
けれど庭のほとんどが芝生に覆われていてなにもされていない状態だ。

壮大な日本庭園でも作れそうなのに。
「この庭は使わないんですか?」

「いや、この庭は薫子の好きにしてもらおうと思って、あえて手をつけていないだけなんだ」
「私の好きに!?」

思わず声が大きくなった。
これだけの庭を好きに使えるなんてまるで夢のようだ。

「あぁ。屋敷内にいても暇になるからな」
「で、でも私は……」

薫子はすぐに笑顔をひっこめてうつむいた。
自分はここに生贄としてやってきたのだ。

そのことを忘れてはしゃぐわけにはいかない。
嬉しい気持ちをグッと押し殺しつつ、頭では素敵な庭園を思い描く。
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