縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
その時だった。
不意に切神が薫子の手を握りしめてきた。

しなやかで細い指先が絡みついてきて薫子の心臓がドクンッと跳ねる。
「ここでは好きにしていい。我慢はしなくていい」

「で、でも……」
「さっきも言ったが、薫子は私の妻だ。妻が自分の家で好きに振る舞うことに不満はない」

絡んだ指先が薫子の手をギュッと握りしめる。
その指先から安心という名前の熱が薫子の中に流れ込んでくるようだった。

やがて薫子に笑顔が戻ってきた。
「私、家庭菜園をしてみたいです」

広い庭を見て言う。
「ほう。いいじゃないか」

「村にも田畑がありますけど、自分の好きなものを植えたことがないんです」
村人たちに助けられて生きてきた薫子は、自分よりも村の人たちが喜ぶことを優先的にやってきた。

育ててみたい野菜や果物があってもそれを口にせず、土地や季節に合わせた植物を育ててきた。
「野菜でも果物でも花でも、好きなものを育てるといい」
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