縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
☆☆☆

日が傾き始めた頃に土間に下りた薫子は、食材を保管している樽をあけて驚いた。
そこには新鮮な海の魚があったのだ。

「こ、これはどうしてここに!?」
村は四方を山に囲まれてるから、採れるのは川魚がせいぜいだ。

これほど新鮮な状態で海の魚を食べることなんてできない。
海から村へ持って来ている間に、どうしても鮮度が落ちてしまう。

「あぁ、出雲に行った時にいただいたんだ」
切神はなんでもないようにそう言った。

出雲から村まで村人の足で一体何日かかると思うのか。
魚なんて足の早い食材を運ぶことはまず無理だ。

だけど相手は神様。
どんな場所へも時間を要する必要はないのだと気がついた。

「で、でもどうしましょうか。私、川魚以外を料理したことがなくて」
それでも早めに食べたほうがいいだろう。

そう思って悩んでいると、隣から切神が手を伸ばして魚を樽から引き上げた。
「それなら私が裁こう」

「え、そんな! 神様にそんなことをさせるなんて!」
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