縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
「それに、村での薫子も素敵だった」
そっと抱き寄せられて耳元をそう言われ、薫子は驚いて切神を見つめた。

「私のことを知っていたんですか?」
「薫子は拾われて来た子だったからな、村の人が報告しにきたことがある。それで気になって見ていたんだ」

「そうだったんですか」
自分を見られていたとわかって途端に恥ずかしさが倍増する。

村では菊乃と一緒に駆け回ってどろんこになって遊んでときだってあるのだから。
「薫子が誰よりも村のことを考えていることもわかっている。私も、この村のために力を使いたい」

「はい」
薫子がこっくりと頷くと、切神の指先が薫子の顎にかかった。

「本当は、どんな姿の薫子でも好いていたのかもしれない」
そうささやき声が聞こえてきたのは幻聴か。

薫子の唇は切神によって塞がれていて、あとのことは霧がかかったかのように真っ白でなにもわからなくなったのだった。
< 57 / 176 >

この作品をシェア

pagetop