縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
☆☆☆

不思議な果物は包丁で切ること無く、水洗いをしてそのままかぶりつくのだと聞いた。
けれどひとつが薫子の拳の倍はある大きさになる。

かぶりつくのは至難の業だった。
「見た目なんて気にしなくていい。ここには私達しかいないんだからな」

切神はそう言うと、大きな口で果物にかぶりついた。
口の端から甘い香りの果汁が手へと滴り落ちていく。

切神はそれも舌で舐め取った。
それを見ていた薫子の喉がゴクリとなる。

果物は幹になっているときからずっといい香りを放っている。
それは桃とりんごを足したような匂いだった。

一体どんな味がするのだろう。
「うまいぞ」

「じゃあ、いただきます」
汁が垂れるのを気にして小さな口で一口かじる。

途端に口の中一杯に甘い香りと味が広がった。
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