縁切りの神様と生贄婚 ~村のために自分から生贄に志願しましたが、溺愛がはじまりました~
「そうですね。夏野菜も育って来ているので塩漬けにして食べましょうか」
「それは美味しそうだな」

薫子はそっと自分の指先に視線を向けた。
そこにはまだ包丁でケガをした後が残っているけれど、もうほとんど目立たなくなり水仕事をしてもどうってことはなくなっていた。

それに気がついた切神が「もう少しよくきく薬草を準備しておこうか。ちょっと治りが遅いか」と、心配してきた。
薫子は慌てて左右に首を振り「もう十分治っています」と、指を曲げたり伸ばしたりして見せた。

「そうか。それならよかった」
そう言ってまた笑みを浮かべる。

だけど切神が安易に笑顔を見せるのは香るこの前だけでのことだった。
村人がお参りにやってきたことに気がついても笑顔は見せないし、その姿を相手に見せることもしない。

もう少し社交的でもいいのにと思うようになっていた。
「切神さまはお友達はいないんですか?」
< 90 / 176 >

この作品をシェア

pagetop