紅色に染まる頃
「エレナさん、体調いかがですか?」
「うん、とっても順調よ」
ふっくらとしたお腹に手をやってエレナが微笑む。
「良かった。私もとても楽しみです、兄さんとエレナさんの赤ちゃん」
「ふふ、ありがとう」
幸せいっぱいのエレナに、美紅も思わず笑顔になる。
紘とエレナの結婚からちょうど1年が経ったある日、桜吹雪が舞うガーデンレストランで美紅はエレナとお茶を飲んでいた。
「みく、さ、ん。こん、に、ちは」
「こんにちは。みんな、げんきですか?」
通りかかる『四つ葉のクローバー』の社員達に声をかけながら、美紅は外の新鮮な空気を感じて深呼吸する。
「美紅ちゃんは最近どう?伊織さんとは会ってないの?」
エレナの問いに、美紅は微笑んで答える。
「お会いしてません。私の役目は終わりましたから」
「そんな…」
声のトーンを落とすエレナに、美紅はもう一度微笑んでからゆっくりとカップに口を付けた。
『時の宿 京都東山』は軌道に乗り、もはや自分が関わるべきことは何もないと、美紅は伊織にこの事業から離れると告げた。
更に借りていた部屋から自分のワンルームマンションにも戻って来た。
小笠原が宿を監修していることには変わりない為、時々祖母と現地を訪れて様子を見たり、伊織と連絡を取り合うこともあったが、せいぜい1ヶ月に2、3回程度だった。
外国人のお客様からのメールや電話に英語で答えたり、SNSを英語とフランス語でアップしてくれているエレナの方が、伊織とのやり取りが多いのかもしれない。
「美紅ちゃん、寂しくないの?伊織さんと一緒にあんなに仕事に打ち込んでいたのに」
「寂しい…ってことはないです。むしろあの時間が私にとっては夢の時間だったので。今は夢から覚めて現実に戻ってきた感じですね」
眩しい朝日の射し込む部屋で目覚め、ゆっくりと緑の庭を散歩する。
ウッドデッキでコーヒーを飲みながら鳥のさえずりを聞き、気持ちを整えて仕事に出かける。
夜には月明かりの中でラウンジのピアノを弾き、リラックスしながら心を落ち着けた。
今となってはその1日1日が、まさに夢のような世界だった。
「夢だなんて。美紅ちゃん、あなたはそのままその夢のような世界に居続けることだって出来るんじゃない?」
「いいえ。私はたまたま小笠原家の監修という名目で関わらせて頂いただけです。本堂様の住む世界に私は場違いですから」
きっぱりそう言うと、美紅はエレナに静かに微笑みかける。
その笑顔は、風に舞う桜の花びらのように儚げで美しいとエレナは感じていた。
「うん、とっても順調よ」
ふっくらとしたお腹に手をやってエレナが微笑む。
「良かった。私もとても楽しみです、兄さんとエレナさんの赤ちゃん」
「ふふ、ありがとう」
幸せいっぱいのエレナに、美紅も思わず笑顔になる。
紘とエレナの結婚からちょうど1年が経ったある日、桜吹雪が舞うガーデンレストランで美紅はエレナとお茶を飲んでいた。
「みく、さ、ん。こん、に、ちは」
「こんにちは。みんな、げんきですか?」
通りかかる『四つ葉のクローバー』の社員達に声をかけながら、美紅は外の新鮮な空気を感じて深呼吸する。
「美紅ちゃんは最近どう?伊織さんとは会ってないの?」
エレナの問いに、美紅は微笑んで答える。
「お会いしてません。私の役目は終わりましたから」
「そんな…」
声のトーンを落とすエレナに、美紅はもう一度微笑んでからゆっくりとカップに口を付けた。
『時の宿 京都東山』は軌道に乗り、もはや自分が関わるべきことは何もないと、美紅は伊織にこの事業から離れると告げた。
更に借りていた部屋から自分のワンルームマンションにも戻って来た。
小笠原が宿を監修していることには変わりない為、時々祖母と現地を訪れて様子を見たり、伊織と連絡を取り合うこともあったが、せいぜい1ヶ月に2、3回程度だった。
外国人のお客様からのメールや電話に英語で答えたり、SNSを英語とフランス語でアップしてくれているエレナの方が、伊織とのやり取りが多いのかもしれない。
「美紅ちゃん、寂しくないの?伊織さんと一緒にあんなに仕事に打ち込んでいたのに」
「寂しい…ってことはないです。むしろあの時間が私にとっては夢の時間だったので。今は夢から覚めて現実に戻ってきた感じですね」
眩しい朝日の射し込む部屋で目覚め、ゆっくりと緑の庭を散歩する。
ウッドデッキでコーヒーを飲みながら鳥のさえずりを聞き、気持ちを整えて仕事に出かける。
夜には月明かりの中でラウンジのピアノを弾き、リラックスしながら心を落ち着けた。
今となってはその1日1日が、まさに夢のような世界だった。
「夢だなんて。美紅ちゃん、あなたはそのままその夢のような世界に居続けることだって出来るんじゃない?」
「いいえ。私はたまたま小笠原家の監修という名目で関わらせて頂いただけです。本堂様の住む世界に私は場違いですから」
きっぱりそう言うと、美紅はエレナに静かに微笑みかける。
その笑顔は、風に舞う桜の花びらのように儚げで美しいとエレナは感じていた。