紅色に染まる頃
「副社長。『時の宿』の新しい候補地への下見は、今月末でスケジュールを調整致しました。場所はお決まりになりましたか?」

須賀に尋ねられて伊織はため息をつく。

「それが決めかねているんだ。京都は小笠原家の協力があったから、説得力のある唯一無二の魅力的な宿になった。そこに続く第二弾は、やはり期待も大きくなるだろう。プレッシャーは望むところだが、それを跳ね除けるアイデアと自信が今の俺にはない」

こんなにも素直に弱音を吐く伊織は見たことがない、と須賀は驚く。
思い当たる理由は一つ。
やはり美紅の存在だった。

本人は自覚していないのだろうが、やはり伊織にとって美紅の存在はとても大きなものだったのだ。
二人で支え合いながら、京都の宿を1から造り上げた。
あの二人だから出来たのだと須賀は思っていた。

(これからは副社長お一人。それはとてつもなく困難な道になるのでは…)

だからと言って自分では助けることは出来ない。
美紅の代わりなど、他の誰にも出来る訳はないのだ。

伊織に分からぬように、須賀も小さくため息をついた。
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