紅色に染まる頃
第二十章 お見合い
「新しい時の宿のテーマを『ノスタルジックな日本の原風景』としたい。日本には世界に誇れる素晴らしい風景や歴史ある建物が数多く存在する。そこを今一度見つめ直し、古き良き日本を感じて頂けるように」

会議室に伊織の良く通る声が響く。

「例えば岐阜県の白川郷、青森と秋田にまたがる白神山地などの世界遺産、長野の阿智村や福島の霧幻峡に大内宿、探せばもっともっとたくさんの魅力的な自然溢れる場所がある。景観や雰囲気を壊さずそこに溶け込める宿として、時の宿の新たな候補地をこれから足を運んで探し出したい」

新たな目標は定まった。
あとは真っ直ぐに突き進むだけ。

伊織は決意に満ちた表情でグッと唇を引き結んだ。

本堂リゾートが取り組む新しい挑戦は、やがて大々的に発表される。

『時の宿』を日本各地に。

日本の魅力を再発見し、外国の方にも広く紹介する。
その意気込みが、取材に応じる伊織の口から語られるのを、美紅はワンルームマンションのテレビで一人眺めていた。

いつの間にか伊織が手の届かない遠い存在になったことを、改めて感じながら。
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