紅色に染まる頃
「ごめんください」

引き戸を開けると、奥の部屋から店主のおじいさんが顔を覗かせる。

「こんにちは」

にこやかに美紅がお辞儀をするが、おじいさんは仏頂面のままだ。

「わあ、伊織さん、見て!金魚の錦玉羹」
「本当だ。涼し気でいいね」
「朝顔の練切もあるわ。夏らしくて素敵」

二人であれこれと楽しく選び、会計をお願いする。

礼を言って包みを受け取り、満足気に店を出ようとすると、ふいにおじいさんの声がした。

「本堂様、小笠原様。この度はご婚約誠におめでとうございます」

えっ!と驚いてから、二人は慌てて頭を下げる。

「ありがとうございます」
「京都の時の宿も泊まらせて頂きました。良い宿ですね。ささやかながら私からも、ご結婚のお祝いに何か作らせて頂けませんか?」

思いがけない話の流れに、またもや二人はええ?!と驚く。

「そんな、お気持ちだけで充分でございます」

そう言ってから、実は…と二人は切り出した。

「引き菓子に是非こちらの和菓子をと先程も二人で話していたのですが、いかんせんお客様の人数が多すぎて…」
「なるほど。披露宴はホテルで?」
「はい。式は神社で家族だけで執り行い、その後ホテルで披露宴を行う予定でおります。ですので本当にお気持ちだけで。ありがとうございます」

もう一度丁寧にお辞儀をしてから、二人は店をあとにした。
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