紅色に染まる頃
「びっくりしたね。まさか俺達のことをご存知で、しかも時の宿を訪れてくださっていたなんて」

車で会社に戻りながら伊織が言う。

「本当に。兄から聞いたのですけど、あのおじいさんも旧華族の出身なんですって」
「そうなの?」
「ええ。京都から単身上京してお店を始められたみたいです」
「そうなんだ。じゃあ小笠原家とも繋がりがあるお家柄だったのかもしれないね」
「どうなのでしょう。私達も、もう旧華族の集まりには参加しないことにしましたから、確かめようがないですが」

すると伊織が眉根を寄せる。

「旧華族の集まりには参加しない?って、どういうこと?」
「あっ、まだお話していませんでしたね」

美紅は新年会での紘と自分の発言や、祖母からの言葉を伊織に話して聞かせる。

「そうだったんだ。そんなことに…」

そう言った切り、伊織は思い詰めたようにじっと押し黙る。

「あの、伊織さん?どうかしましたか?」

伊織は口を閉ざしたまま会社に戻ると、駐車場に車を停めてエンジンを切る。

そして美紅に向き合って話し出した。
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