紅色に染まる頃
「美紅。君達小笠原家が集まりから抜けることになったのは、君が本堂リゾートの仕事に関わったからなんだね?」
「伊織さん…。それは違います。私も兄も自分の意思でそうしました。祖母と母も同じ気持ちだと」
「でも君がこの仕事に関わらなければ、その集まりで君や紘さんが問い詰められることはなかった。これからも続くはずだった関係を、本堂リゾートの、いや、俺のせいで壊してしまったんだ」

険しい顔でうつむく伊織に、美紅は必死で否定する。

「違います!伊織さんのせいなんかじゃありません。それに、私達一家はその集まりに何の未練もありません。むしろ抜けられて良かったと…」
「だが俺は、古くからの伝統あるお家柄に水を差してしまった」
「そんな、違います」

どんなに美紅が否定しても、伊織は自分を責め続ける。

「分かっていたつもりだったけど、甘かったな、俺。由緒正しい小笠原家の令嬢である君をお嫁にもらうってことは、こんなにも大きなことだったんだ」
「伊織さん!」

美紅は鋭い目で伊織を見つめると、有無を言わさぬ強い口調で話し出す。

「私の気持ちを無視しないでください。私はあなたと結婚したいのです。一生そばにいて、あなたを幸せにすると誓ったのです。その私の覚悟を甘くお考えですか?」
「美紅…」
「以前、本堂グループのパーティーで私がお客様に乱暴を働いて自信を失くした時、あなたは言ってくださいましたよね?本堂グループも小笠原家も、そして君の人生も背負って必ず仕事をやり遂げてみせるって。自分の言葉を信じて頷いてくれた君を、決して裏切らない。大きな決断をしてくれた君に、決して後悔はさせないって」

美紅は伊織を真剣に見据えて続ける。

「今私は、あの時のあなたと同じ気持ちです。どんなことがあっても、私はずっとあなたのそばにいて、あなたを支えます。必ずあなたを幸せにします。私のその覚悟を、とくと思い知らせて差し上げますわ」

しばらく瞬きを繰り返した後、伊織は一気に笑い出した。

「あはは!さすがだよ、美紅。もう俺、気迫に負けてビビりそうだった。凄いな、さすがはお武家様だ。美紅がきっぱり言い切ってくれたんだ、俺を幸せにするって。こんなに力強い言葉があるか?あー、俺の男としての立場がない」

ひとしきり笑った後、伊織は美紅に真剣に向き合った。

「ごめん、美紅。もう二度とこんな情けない弱音は吐かない。強い美紅を守るには、もっともっと俺が強くならないとな」
「伊織さん…」
「よし、うじうじ言ってないで、何がなんでも俺が美紅を幸せにする。こんなにも素敵で最高の女性なんだもんな、美紅は。俺も相応しい男になってみせるよ」

力強い伊織の言葉に、美紅もようやく笑顔になって頷いた。
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