紅色に染まる頃
横からサッと背の高い男性が割って入ったかと思うと、美紅の目の前で男が軽々と宙に舞った。

(おお!見事な払腰)

ドスッと地面に打ち付けられ、うめき声を上げる男に覆いかぶさって動きを封じると、男性は顔を上げて美紅を見た。

「大丈夫か?」

サラッと揺れる前髪から、真剣な眼差しが覗く。

「はい、大丈夫です」
「そうか、良かった」

スーツ姿で綺麗な顔立ちのその男性がホッと息を吐いた時、騒ぎを聞きつけたらしい警察官が二人、バタバタと駆け寄って来た。

「どうしました?」
「この男があちらの女性の財布を盗もうとしたようです」

美紅が少し離れた親子に視線を送ると、警察官の一人は女性のもとへ行き、事情を聞き始めた。

美紅はその場を離れ、祖母に「参りましょう」と声をかけると足早に歩き出す。

「君、ちょっと待って!」

振り返ると、警察官に男を引き渡したスーツの男性が、タタッとこちらに向かって来た。

「何か?」

美紅は斜めに男性を振り返る。

「何かじゃないだろう?なぜあんな危ない真似をした?俺が通りかからなかったらどうなっていたか…」
「あなたが通りかからなかったら?」

訝し気な声で言い、美紅は正面から男性に向き合う。

「わたくしが仕留めたまでです」
「…は?」

男性は意味が分からないとばかりに眉間にしわを寄せる。

「君、何を言って…」
「急ぎますので、失礼致します」

ゆっくりとお辞儀をすると、美紅はすぐさま踵を返した。

祖母は、まだポカンとしている男性にふふっと笑いかける。

「ごめんなさいね、あんな男前な子で。せっかくあなたみたいなイケメンに助けてもらったのにね。あー、もったいないわ」

そしてもう一度、ごめんくださいませと頭を下げてから、祖母は美紅のあとを追った。
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