紅色に染まる頃
「本堂様があのバーにいらしてたなんて、全く気がつきませんでした」
演奏を終えた美紅は、なんとなくカウンターチェアに座って話し始めた。
「初めていらしてくださったのですか?」
「ああ。会社で社員が話題にしていたのを耳にしてね。ふらっと立ち寄ってみたんだ。とても良い雰囲気のバーだね。君の演奏も素晴らしかった」
「ありがとうございます。いつもは兄の恋人が演奏しているのですけれど、体調を崩してしまって。今夜はお客様からサプライズのご依頼が入っていたので、どうしてもピアニストが必要だと、兄に急遽頼まれたのです」
「そうだったんだ。お兄さんはあのバーのオーナーなの?」
「ええ。兄はいくつかの飲食店を経営していますが、取り分けあのバーを気に入っていて、夜はほぼ毎日あそこでバーテンダーをしているのです。内装から家具や装飾まで、全て兄がプロデュースしました」
「へえ、とてもセンスがいいね。俺にもそんな素晴らしいセンスがあれば良かったな。まだまだ勉強が足りない」
美紅は少し首を傾げて伊織の顔をうかがう。
「本堂様のお仕事のことですか?」
「ああ。実は今日、会議で行き詰まってね。気分転換にあのバーに行ったんだ。とても良い時間だった。沈んでいた気持ちが救われたよ」
すると美紅は、優しい笑みを浮かべて頷いた。
「それは良かったです。ほんの少しだけでも本堂様のお力になれたのなら、わたくしもとても嬉しく思います」
「ありがとう。また寄らせてもらってもいいかな?」
「もちろんですわ。兄も喜びます」
伊織は、月明かりの中で微笑む美紅の美しさに見とれながら頷いた。
演奏を終えた美紅は、なんとなくカウンターチェアに座って話し始めた。
「初めていらしてくださったのですか?」
「ああ。会社で社員が話題にしていたのを耳にしてね。ふらっと立ち寄ってみたんだ。とても良い雰囲気のバーだね。君の演奏も素晴らしかった」
「ありがとうございます。いつもは兄の恋人が演奏しているのですけれど、体調を崩してしまって。今夜はお客様からサプライズのご依頼が入っていたので、どうしてもピアニストが必要だと、兄に急遽頼まれたのです」
「そうだったんだ。お兄さんはあのバーのオーナーなの?」
「ええ。兄はいくつかの飲食店を経営していますが、取り分けあのバーを気に入っていて、夜はほぼ毎日あそこでバーテンダーをしているのです。内装から家具や装飾まで、全て兄がプロデュースしました」
「へえ、とてもセンスがいいね。俺にもそんな素晴らしいセンスがあれば良かったな。まだまだ勉強が足りない」
美紅は少し首を傾げて伊織の顔をうかがう。
「本堂様のお仕事のことですか?」
「ああ。実は今日、会議で行き詰まってね。気分転換にあのバーに行ったんだ。とても良い時間だった。沈んでいた気持ちが救われたよ」
すると美紅は、優しい笑みを浮かべて頷いた。
「それは良かったです。ほんの少しだけでも本堂様のお力になれたのなら、わたくしもとても嬉しく思います」
「ありがとう。また寄らせてもらってもいいかな?」
「もちろんですわ。兄も喜びます」
伊織は、月明かりの中で微笑む美紅の美しさに見とれながら頷いた。