紅色に染まる頃
第八章 伊織の覚悟
「は?何ですと?」
会議室に集まった役員達が、一斉に伊織に訝しげな視線を向ける。
「小笠原グループに、委託する?」
「まさか。ホテル経営も旅行業にも無縁のあの小笠原グループに?」
「我々の聞き間違いですかな」
ざわめきの中、ははは!と笑い声まで上がった。
伊織は落ち着いた表情でじっと前を見据える。
何を言われても動じない。
どんなに批判されても、この考えは変えない。
「副社長。なぜ黙っているのです?」
「もしや、やましいお考えでも?ほら、小笠原には年頃の娘さんがいるじゃないですか」
「あー、なるほど。仕事に色恋沙汰を持ち込もうと?」
「それはあまりにも考えが幼稚過ぎやしませんか?副社長殿」
好き放題言い続ける年輩の役員達が、言いたいことを全て言い尽くすのをひたすら待つ。
伊織のその様子を見て、徐々にざわめきが消えた。
皆が口をつぐんで伊織に注目すると、伊織は1つ深呼吸してから口を開いた。
「もう一度言います。新しく手掛けるホテルは、小笠原グループにプロデュースを委託します。目的は、ホテルを唯一無二の魅力あるものにする為。お客様が、このホテルでしか味わえないと感じられる、特別な魅力を持つ場所にする為です」
しばらくの沈黙の後、まだ若い役員が手を挙げて質問する。
「なぜ小笠原グループなのでしょうか?」
伊織は頷いてから答えた。
「小笠原グループは、確かにホテルや旅行業には明るくない。だが、所有している不動産や飲食店などは一つ一つに明確なコンセプトを持たせており、訪れる人の評価は高い。お客様の要望や意見を柔軟に取り入れて改良していく姿勢も、今までの我々にはなかった。私は実際に小笠原グループが手掛けたレストランやバーを訪れ、その理念に共感し、是非とも新たな本堂リゾートの挑戦に力を貸してもらいたいと考えた」
静まり帰った会議室に、伊織の声だけが響く。
「何事においても、新しい事をする時には躊躇や迷いが生じるのは当然だ。だが、恐れていては何も始まらない。本堂リゾートも、現状を打破しなければ潰れていくだけだ。信念を持ち、皆で力を合わせて乗り越えていきたいと思っている」
しんとした静けさが広がる。
誰もが固く口を閉ざしたままだった。
やがてゆっくりと木崎社長が口を開いた。
「伊織くん」
「はい」
社長が会議中に言葉を発するのはいつ以来だろうと思いながら、伊織は姿勢を正して向き直る。
「君の挑戦は、相当な批判や失敗と背中合わせだ。どんな事態になっても、必ずやり遂げる覚悟はあるのかね?」
「はい。この道しかないと確信し、たとえどんな困難があったとしても必ず最後までやり遂げてみせます」
「もし失敗したら?」
「成功に変わるまでやり遂げます」
社長はしばらくじっと考えてから頷いた。
「分かった。君が舵を切る船に、私も乗るよ」
え…、と思わず呟いてから、伊織は立ち上がって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「ああ、よろしく頼むよ」
そして社長は、ぐるっと役員達を見渡した。
「今日から本堂リゾートの新たな挑戦が始まる。皆で一致団結して、革命を起こそうじゃないか。大きな壁に立ち向かい、必ず明るい未来を手に入れよう」
「はい!」
声を揃えて頷く役員達に、社長も大きく頷いてみせた。
会議室に集まった役員達が、一斉に伊織に訝しげな視線を向ける。
「小笠原グループに、委託する?」
「まさか。ホテル経営も旅行業にも無縁のあの小笠原グループに?」
「我々の聞き間違いですかな」
ざわめきの中、ははは!と笑い声まで上がった。
伊織は落ち着いた表情でじっと前を見据える。
何を言われても動じない。
どんなに批判されても、この考えは変えない。
「副社長。なぜ黙っているのです?」
「もしや、やましいお考えでも?ほら、小笠原には年頃の娘さんがいるじゃないですか」
「あー、なるほど。仕事に色恋沙汰を持ち込もうと?」
「それはあまりにも考えが幼稚過ぎやしませんか?副社長殿」
好き放題言い続ける年輩の役員達が、言いたいことを全て言い尽くすのをひたすら待つ。
伊織のその様子を見て、徐々にざわめきが消えた。
皆が口をつぐんで伊織に注目すると、伊織は1つ深呼吸してから口を開いた。
「もう一度言います。新しく手掛けるホテルは、小笠原グループにプロデュースを委託します。目的は、ホテルを唯一無二の魅力あるものにする為。お客様が、このホテルでしか味わえないと感じられる、特別な魅力を持つ場所にする為です」
しばらくの沈黙の後、まだ若い役員が手を挙げて質問する。
「なぜ小笠原グループなのでしょうか?」
伊織は頷いてから答えた。
「小笠原グループは、確かにホテルや旅行業には明るくない。だが、所有している不動産や飲食店などは一つ一つに明確なコンセプトを持たせており、訪れる人の評価は高い。お客様の要望や意見を柔軟に取り入れて改良していく姿勢も、今までの我々にはなかった。私は実際に小笠原グループが手掛けたレストランやバーを訪れ、その理念に共感し、是非とも新たな本堂リゾートの挑戦に力を貸してもらいたいと考えた」
静まり帰った会議室に、伊織の声だけが響く。
「何事においても、新しい事をする時には躊躇や迷いが生じるのは当然だ。だが、恐れていては何も始まらない。本堂リゾートも、現状を打破しなければ潰れていくだけだ。信念を持ち、皆で力を合わせて乗り越えていきたいと思っている」
しんとした静けさが広がる。
誰もが固く口を閉ざしたままだった。
やがてゆっくりと木崎社長が口を開いた。
「伊織くん」
「はい」
社長が会議中に言葉を発するのはいつ以来だろうと思いながら、伊織は姿勢を正して向き直る。
「君の挑戦は、相当な批判や失敗と背中合わせだ。どんな事態になっても、必ずやり遂げる覚悟はあるのかね?」
「はい。この道しかないと確信し、たとえどんな困難があったとしても必ず最後までやり遂げてみせます」
「もし失敗したら?」
「成功に変わるまでやり遂げます」
社長はしばらくじっと考えてから頷いた。
「分かった。君が舵を切る船に、私も乗るよ」
え…、と思わず呟いてから、伊織は立ち上がって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「ああ、よろしく頼むよ」
そして社長は、ぐるっと役員達を見渡した。
「今日から本堂リゾートの新たな挑戦が始まる。皆で一致団結して、革命を起こそうじゃないか。大きな壁に立ち向かい、必ず明るい未来を手に入れよう」
「はい!」
声を揃えて頷く役員達に、社長も大きく頷いてみせた。