紅色に染まる頃
「は?!ホテルを、プロデュース?」

そう言ったきり、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まる父に、美紅はやれやれと小さくため息をつく。

(だから違うと申し上げたのに)

隣に座る紘は、プッと笑いを洩らしてから伊織に声をかけた。

「とにかく、顔を上げてください。本堂さん」

伊織は少しためらったあと、ゆっくりと顔を上げる。

初めて会った和楽庵の一室で、父や兄と一緒に美紅は伊織と向き合っていた。

先週、折り入って話をさせて頂きたい、出来れば紘と美紅も同席の上、と伊織から連絡を受けたと興奮気味に父から電話がかかってきた。

「美紅、お前、一番上等な振り袖を着なさい。それからお返事の言葉も、よくよく考えておくのだぞ?」

そう言われて美紅は、父上、何か勘違いしておられますよと言ったのだが、やはりその通り、結婚話と思っていたようだ。

固まっている父の代わりに、仕方なく紘が話を進める。

「本堂さん、もう一度確認させてください。御社が手掛ける新しいホテルのプロデュースを、我々小笠原グループに委託したい、というお話で間違いありませんか?」
「はい、おっしゃる通りです」
「なぜそのようなことを?我々はまるで畑違いではありませんか?ホテルを手掛けたこともなければ、プロデュース業なんて考えたこともありません」
「言葉にすると違和感があるかもしれませんが、既に素晴らしいお力を発揮されていると存じます」
「それは、例えばうちのバーとかこの和楽庵のことですか?」
「はい。他にも先日見学させて頂いたガーデンレストランや詳しくお話を聞かせて頂いたカフェなど、一つ一つがとても魅力的でそこにしかない価値のあるものだと感じました。そんなふうに我々本堂リゾートも、他にはない魅力に溢れ、訪れる価値があると思って頂けるホテルを1から作りたいと思っております。その為に、小笠原様のお力を是非お借りしたいと。どうかよろしくお願い致します」

再び頭を下げる伊織に、紘はうーん…と考え込む。
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